
加西アルプスの奇声
兵庫県加西市の北西部に連なる善防山・笠松山一帯は、標高こそ低いが岩稜と痩せ尾根が連続することから「加西アルプス」と呼ばれ、播磨平野を望む眺望の良いハイキングコースとして親しまれている。中世にはこの山塊に城砦が築かれ、地域の合戦の舞台ともなった土地で、麓には溜め池と古寺が点在する。日が落ちると尾根筋は風の通り道となり、独特の音響が古くから語り継がれてきた。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夕暮れ以降に尾根を歩いていると、谷の奥のほうから人とも獣ともつかぬ高い声が一度だけ短く響き、すぐに静まり返る、というものである。複数人で歩いていても声の出所が特定できなかった、岩場の隙間を抜ける風音に低い呻吟が混じって聞こえた、ヘッドランプの光の届かぬ岩陰で小石が転がる音が続いた、と語る登山者もいる。鹿や鳥の鳴き声、夜風が岩稜に反響して生じる現象との説もあり、城砦の戦の記憶を背景に、土地の地形と山の畏れが長く物語を育ててきた。 地元では、低山であっても山は神域としての性格を残す場所だと受け止められ、麓の寺社では山の安全と里の安寧を願う行事が続けられている。奇声の話は恐怖譚としてだけでなく、夕刻以降に軽装で山へ入ることへの戒めとして、地元の人々から穏やかに伝えられてきた。 加西アルプスは岩稜が連続し、夜間や雨天には滑落の危険が高い。心霊目的の夜間入山は遭難確率を著しく高めるため厳に控え、必ず日中・複数人で装備を整え、登山道を外れず行動してほしい。