
旧周防大島町立病院
山口県周防大島町に残る旧町立病院は、瀬戸内に浮かぶ離島の医療を長く支えた施設である。一九六〇年代に建てられ、急患搬送や慢性疾患の診療、地域の予防医療を担ったが、人口減と離島医療の集約化により一九九〇年代に廃院となった。建物には診察台やカルテ棚が残されたまま時を止めており、島で生きた人々の生老病死を静かに見届けた医療史の現場として、地域の記憶のなかに静かに刻まれ続けている貴重な場所である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夜間に建物の前を通りかかった際、暗い病棟側の窓に白衣に似た輪郭の人影がよぎるのを目撃する、というものである。深夜に近づくと風の通り道とは別方向から強い視線を感じて足が止まった、廊下側から金属器具の触れ合うような微かな音が断続的に届いた、待合の方角からかすかな咳のような響きを聞いたと語る訪問者がいる。語りの多くは故人や医療者への敬意と結びつく。 地元では離島医療を担った医師・看護師・通院した患者たちへの感謝が深く根づいており、廃院をめぐる話も興味本位ではなく医療史への弔いとして語られる。建物は私有・管理地であり、地域の人々はその静謐さを守るべき場所として受け止めている。 建物内部は床抜けやアスベスト、医療廃棄物残留の危険があり、無断侵入は不法侵入罪に問われる。心霊目的の立入は厳に控え、周防大島の医療史に関心がある場合は郷土資料館等の公的展示を通じ、離島医療を支えた人々へ静かに敬意を払うこと。