
輪之内町廃農村跡の怪異
岐阜県輪之内町は、長良川と揖斐川に挟まれた濃尾平野の輪中地帯に位置し、洪水と治水の長い歴史を抱えながら米作・麦作・野菜栽培が営まれてきた土地である。輪中堤と水屋に象徴される独自の暮らしの記憶が色濃く、近代以降の離農と区画整理の過程で、一部地区では使われなくなった耕地と農道、空き家が静かに広がっていると伝えられてきた。木曽三川の合流域に独特の祭礼や水神信仰の記憶も土地に重なっている。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夕暮れから夜にかけて廃田の脇を通る農道を走行していると、田の奥に蓑笠姿らしき人影が立っているのを目撃する、というものである。誰もいないはずの方角から耕運機のような低いエンジン音が遠く響いた、夜の用水路沿いを歩く足音が並走してくるように感じられた、廃屋の戸口に立つ輪郭が一瞬見えたと語る訪問者がいる。水と土の記憶が、平野の闇のなかで物語的に立ち現れている。 地元では、輪中の暮らしを支え続けた農家の方々と、農作業の最中に不慮の事故で亡くなった人々への弔いが、世代を超えて穏やかに受け継がれてきた。怪異の話は単なる怖い話ではなく、洪水と治水の歴史、農村文化を後世に伝える寓話的な側面を強く持っている。 農道は夜間の見通しが悪く、用水路の脱輪や対向車との接触事故が起きやすい。廃農地への無断立入は不法侵入にあたる。心霊目的の深夜訪問は厳に控え、訪れる場合は日中に輪中の歴史を学び、農村と治水文化への敬意を欠かさないこと。