
みやき町の廃農村
佐賀県三養基郡みやき町は、筑後川中流域の右岸に広がる平野部で、古来より米と麦の二毛作に支えられてきた農の土地である。筑後川の豊かな水を引いた水田地帯では田植え歌が世代を超えて唄い継がれてきた一方、農家の後継者不足と圃場整備の進展により、川沿いの低地には作付けを止めた小集落の名残が点々と残る。佐賀平野の農の記憶が色濃い土地として、農繁期の夜に田植え歌の幻聴が流れるという話が、地域の語りのなかで穏やかに受け継がれてきた。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、田植え時期の蛙の声が満ちる夜更けに、人気のないはずの旧水田の方角から、節回しのゆったりとした田植え歌と、田下駄を踏むような水音が断続的に届く、というものである。畦道の遠くに笠をかぶった人影が並んで作業しているような輪郭が一瞬だけ見えた、と語る訪問者がいる。筑後川の湿った夜気と水路の音とが、土地の唄の記憶を呼び戻している。 地元では、田植え歌を唄いながら共同で水田を守ってきた先人たちへの敬意が、世代を超えて受け継がれてきた。離農は怪異ではなく農業構造の変化の帰結であり、住民は廃田跡を「先人の働いた田」として静かに見守り、現象の話を煽情的に扱うことを慎んでいる。 川沿いの低地は増水や用水路への転落の危険があり、夜間は視界が極端に悪い。私有地や農地への無断立入は厳禁で、心霊目的の深夜訪問は控え、訪れる場合は日中に農道のルールを守り、筑後川流域の農の歴史と暮らしへの敬意を欠かさないこと。