
鴨川シーラインの幽霊トンネル
千葉県鴨川市の海岸沿いを走る旧道筋には、断崖と海を貫くように開削された旧トンネルが点在しており、外房黒潮ライン整備以前は鴨川と隣接地域を結ぶ重要な生活路として機能してきた歴史を持つ。海食崖の不安定な地質と急峻な地形は工事の難所であり、開通後も雨天時の路面状況や視界不良に起因する交通事故が幾度か記録されてきた。新道完成後の旧トンネルは交通量を大きく減らし、海鳴りと潮風だけが残る静かな場所となっている。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、雨の夜に旧トンネル内に車で入ると、坑口付近にレインコートのような輪郭の人影が一瞬だけ立っているように見える、というものである。トンネル内で携帯の電波が急に途切れ車内ラジオが雑音に覆われた、坑口の方向から低い波音に紛れて呼ぶような声を聞いた、と語る訪問者もいる。土地の記憶が雨夜の闇のなかで立ち現れている。 地元では、海岸沿いの旧道で交通事故により命を落とされた方々への弔いが、路傍の地蔵や近隣寺院の供養として穏やかに受け継がれてきた。幽霊トンネルの語りは怪奇趣味ではなく、海と道のあわいで失われた命の重みを次世代へ伝える媒介として位置づけられている側面が強いとされる。 旧トンネル周辺は落石・路肩崩落・舗装劣化の危険があり、夜間の単独訪問や肝試し目的の通行は事故の確率が極めて高い。深夜訪問は厳に控え、訪れる場合は日中に外房黒潮ラインから景観を楽しみ、命を落とされた方々への深い哀悼を捧げること。