
松島町松島の海難霊
宮城県松島町の松島湾は、二百六十余の島々が浮かぶ日本三景のひとつとして古来より歌人や俳人に詠まれ、瑞巌寺や五大堂、円通院など仏縁の深い社寺を擁する祈りの土地として知られてきた。穏やかに見える内湾も、冬の強風や濃霧、夏の夕立のもとでは海難が絶えず、また近代以降にも遊覧船の遭難の記録が伝えられており、海と暮らしの間には深い哀悼の歴史が、湾沿いの供養碑や島々の石仏とともに、静かに今も横たわっている土地でもある。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、霧の朝に湾岸の遊歩道から島影を眺めていると、無人のはずの岩陰の海面に白い人影が首から上だけ浮かぶように現れ、しばらくしてゆっくり波の下へ沈んでいく、というものである。海面のほうから読経に似た低い響きが届いた、潮風のなかで誰かに袖を引かれたような気がした、と語る訪問者もいる。 地元では、海で命を落とされた方々への供養を、瑞巌寺をはじめ湾岸の社寺と漁師町の習いのなかで世代を超えて受け継いできた。現象の語りも、煽情ではなく海への畏れと弔いの心として、慎ましく穏やかに伝えられ続けている。 岩礁や桟橋付近は高波と滑りやすい岩肌で転落の危険が高く、夜間や荒天時の海岸接近、無許可の船舶利用、立入禁止区域への侵入は事故の確率が極めて大きい。心霊目的の深夜立ち入りは厳に控え、訪れる際は日中の遊歩道や正規の遊覧船から景観を味わい、海難で亡くなられた方々へ静かに手を合わせること。