
岩手山廃スキー場
岩手県滝沢市の岩手山南麓に残る廃スキー場は、かつて家族連れや学校行事の集団スキー教室で大いに賑わったゲレンデを擁したレジャー施設の跡である。岩手山は古くから山岳信仰の対象とされてきた北東北を代表する霊峰であり、その裾野に開かれたスキー場が役目を終えた後も、リフトの錆びた支柱やロッジの建屋の一部が静かに山の景色のなかに残され、季節ごとに表情を変えながら時間を重ねている。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夜に廃スキー場の入口付近からゲレンデを見上げると、運休しているはずのリフトの搬器に人影のような輪郭がぼんやりと並んで見えてしまう、というものである。閉ざされたロッジの方角から子どもの笑い声のような余韻が風に乗って遠く届いた、誰もいない斜面でスノーボードが滑るような擦過音が一瞬だけ聞こえた、急に空気が薄く感じて立ちくらみがしてその場を離れた、と語る訪問者がいる。 地元では、岩手山で命を落とされた登山者・遭難者の方々への弔いが、霊峰への古い信仰と山岳救助の活動とともに世代を超えて穏やかに受け継がれてきた。現象の話は単なる怪異ではなく、霊峰の裾野が抱えてきた人々の記憶を伝える寓話としての側面を強く持っている。 廃スキー場の敷地は管理区域で、リフト塔や建屋は崩落や転倒の危険が高い。冬季は雪崩・低体温症のリスクも伴うため、心霊目的の立入は厳に控え、岩手山の景観は登山口や展望所から霊峰への敬意をもって眺めたい。