
旧神奈川廃精神療養所跡
神奈川県北部・相模原市の郊外には、近代日本の精神医療を担った療養所のひとつが、機能の移転と統廃合を経て使われない状態で残されている。木立に囲まれた敷地は日中でも独特の静謐に包まれ、夜になると「いまも誰かが歩いている」と語られる心霊スポットとして、地元の若い世代を中心に名前が伝えられてきた場所である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、深夜に外周フェンスの外を歩くと、敷地内の建物の方向から廊下を歩くような規則的な足音と、独り言のような低い声が断続的に聞こえる、というものである。空気の重さが急に変わった、頭の中で何かを訴えるような感覚を覚えた、と語る訪問者もいる。具体的な事件として記録されたものは少なく、噂は施設の歴史と建物の外観そのものに強く依存している。 精神医療の歴史には、長きにわたって偏見と試行錯誤が積み重なってきた経緯がある。地元では、亡くなられた患者の方々への哀悼を最優先に置き、現象を娯楽的に消費するのではなく、医療と社会の関わり方を考える契機として穏やかに語る姿勢が共有されてきた。差別的な表現や、当時の患者・職員の方々の尊厳を傷つける語り方は強く忌まれる土地でもある。 旧療養所の敷地は医療法人や行政の管理下にあり、立ち入りは不法侵入に該当する。建物の老朽化と医療廃棄物・残置物による事故リスクも極めて高い。心霊目的での訪問は厳に控え、関心がある場合は近代日本の精神医療史を扱う専門書や郷土資料を通じて、敬意ある形で土地の歴史に触れること。
