
旧甲子トンネル
福島県西白河郡西郷村と下郷町を結ぶ国道289号甲子道路は、1970年の国道指定から38年間、自動車での通行を遮断された交通難所だった。標高1,400メートルの甲子峠を越える唯一のルートでありながら、険しい地形と豪雪のため、1975年の着工から2008年の開通まで33年の歳月を要した。この長い工期の中で、地形と工事は幾度となく衝突した。2002年の台風6号による集中豪雨は甲子峠付近で大規模な地滑りを引き起こし、それまで敷設されていた複数のトンネルと橋梁の廃棄を余儀なくさせた。当初の甲子道路では、きびたきトンネルをはじめとする複数の坑道が掘られたが、この地滑り被害によってルート全体が見直され、新たに掘り直される羽目になったのである。廃止されたトンネルには片見トンネルなどが含まれ、約7年間の運用期間を経て2002年に封鎖された。その後、迂回ルートとして新たに約900メートルのトンネルが新設され、2008年9月21日、全長4,345メートルの甲子トンネルがついに開通した。だが新しいトンネルも周囲の地質によって試験されることになる。開通後、トンネルに含まれるスメクタイトという膨張性の鉱物が水分を吸収し、路面が最大33センチメートルも隆起する異常が発生した。トンネル内のひび割れや水漏れも相次ぎ、その後の調査で地震とトンネル工事による地盤の劣化が問題の背景にあることが判明した。こうして、難工事と自然の猛威、そして地質学的な異常現象が折り重なった場所として、旧甲子トンネルと廃止区間の存在は知られるようになった。今日、旧道に残された廃トンネルの遺構は、かつての工事の苦労と、この峠がいかに困難な地形であるかを物語る証として、山中に静かに存在している。