
能代市廃製材工場の労働者霊
秋田県能代市は米代川の河口に位置し、秋田杉の集散地として近代以降に製材業で栄え、「東洋一の木都」と称された木材産業の中心地である。市内には大小の製材工場が立ち並び、丸太の搬入から製材、乾燥、出荷までを担う多くの労働者が、町の経済と暮らしを支えてきた。木材需要の変化とともに閉鎖された工場の一部は廃屋として残り、木都と呼ばれた町の記憶と労働の重みを静かに留めている。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、深夜に廃製材工場の敷地脇を通ると、帯鋸や送材機が動くような規則的な機械音と、人の作業声に似た低い響きが、誰もいないはずの建屋から微かに伝わってくる、というものである。木屑の香に似た残り香を感じた、入口付近の暗がりに作業着姿らしき影が一瞬立つように見えた、と語る通行人もいる。製材作業の事故で命を落とされた労働者さんたちへの追悼の感情が、町の集合的記憶として穏やかに立ち現れている。 地元では、木都能代を支えた製材労働への敬意と、不慮の事故で命を落とされた方々への弔いの思いが、郷土史や木材産業の祭礼を通じて世代を超えて継承されている。怪異の語りは恐怖を煽るものではなく、産業の陰で働いた人々への鎮魂の寓話として受け止められている。 廃工場は私有地であり、無断立入は不法侵入にあたる。建物の老朽化や鋸刃残置による負傷の危険もあり、心霊目的の侵入は厳禁である。木の学校など正規施設で木都の歴史に触れ、労働者への敬意を欠かさないこと。
