
旧志賀草津道路
長野県山ノ内町と群馬県草津温泉を結ぶ志賀草津道路の一部区間は、標高2000メートルを超える高地を走る山岳道路として古くから知られてきた。火山活動の状況や気象条件の悪化を理由に通行止めとなった区間が現在も残されており、旧道沿いには厳しい自然条件のなかで道路を切り開いた工事の歴史と、高山特有の景観が静かに横たわっている。濃霧と気温差が支配する高地の道である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、濃霧で視界を失ったカーブにさしかかったとき、霧の奥から人影のような輪郭が一瞬だけ浮かぶように見える、というものである。エンジン音が突然細くなり停止しかけた、後部座席のあたりから低い声のような響きを聞いた気がした、と語る通行者がいる。具体的な事件と直結する伝承ではなく、過去にこの山岳路で命を落とされた方々の記憶が、霧と高度の景観のなかで物語的に立ち現れている。 地元では、厳しい自然条件のもとで道を切り開き維持してきた工事関係者や、事故で命を落とされた方々への静かな弔いが、世代を超えて受け継がれてきた。現象の話は単なる怪異ではなく、高山の自然への畏れと記憶を後世に伝える語り口の一部として穏やかに受け止められている。 通行止め区間への立ち入りは法令上禁じられており、火山ガスや滑落、低体温症の危険も伴う高地である。心霊目的の深夜訪問は厳に控え、訪れる場合は通行可能な区間を日中に走行し、犠牲者と高地で働いた人々への敬意を保つこと。
