
伊東市旧城ヶ崎海岸の水難霊
静岡県伊東市の城ヶ崎海岸は、約四千年前の大室山の噴火による溶岩流が太平洋に流れ込んで形成された険しいリアス状の海岸線で、切り立った黒い断崖と碧い海面のコントラストが東伊豆を代表する景観として古くから広く知られてきた。荒磯と強い潮流のため、漁撈や磯釣りの事故が絶えず、海岸沿いの集落では海で命を落とされた方々への供養が、世代を超えて静かに営まれ、岬や岩礁の窪みには小さな祠や地蔵が今も点在し、海と暮らしの距離を伝えている土地である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、霧の濃い早朝に吊り橋付近の遊歩道から海面を見下ろしていると、岩礁のすぐ脇の波間に細い腕のような白い線が一瞬だけ立ち上がり、すぐに引き波とともに沈んで見えなくなる、というものである。磯のほうから自分の名を呼ぶような声を聞いた、潮鳴りに紛れて低い読経が短く届いた、と語る釣り人もいる。 地元では、海難で亡くなられた方々を慰める祠や石碑が海岸線の各所に置かれ、漁師町としての弔いの習いと、海への畏れを次代に伝える語りが今も続いている。怪異の語りは、荒磯の危険を後世に伝える戒めとしての側面を併せ持ち、穏やかに受け継がれてきた。 断崖と岩場は強風と高波で転落・流出・行方不明の危険が極めて高く、台風や低気圧の接近時には接近自体が命に関わる。心霊目的の深夜立ち入りは厳禁とし、訪れる際は日中に整備された遊歩道のみを歩き、柵を越えず、海難で亡くなられた方々への弔いの心を静かに保つこと。