
島田市廃製茶工場の労働者霊
静岡県島田市は牧之原台地の南麓に広がる全国有数の茶どころで、大井川とともに育まれた製茶業が古くから地域経済を支えてきた。明治以降、市内には荒茶工場や精製場が数多く設けられ、摘採期には昼夜を問わず製茶機械が稼働し、多くの労働者が蒸し・揉み・乾燥の工程を担ってきた。産業の変遷とともに閉鎖された工場の一部は、茶のまちの記憶を静かに留める廃屋として残っている。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、深夜に廃製茶工場の敷地脇を通ると、揉捻機や乾燥機が回るような規則的な機械音と、人の作業声に似た低い響きが、誰もいないはずの建屋から微かに伝わってくる、というものである。窓の隙間から茶の香に似た残り香を感じた、入口付近の暗がりに作業着姿らしき影が立つように見えた、と語る通行人がいる。製茶を支えた労働者さんたちへの追悼の感情が、町の集合的記憶として穏やかに立ち現れている。 地元では、茶どころ島田を支えた製茶労働への敬意と、不慮の事故で命を落とされた方々への弔いの思いが、郷土史や茶業の祭礼を通じて世代を超えて継承されている。怪異の語りは恐怖を煽るものではなく、産業の陰で働いた人々への鎮魂の寓話として受け止められている。 廃工場は私有地であり、無断立入は不法侵入にあたる。建物の老朽化による落下や床抜けの危険もあり、心霊目的の侵入は厳禁である。お茶の郷博物館など正規施設で製茶史に触れ、労働者への敬意を欠かさないこと。