
旧本坂トンネル
夜の旧本坂トンネルでは、トンネル内部から正体不明の足音が聞こえてくるという噂が長年にわたって語られている。特に「女性の泣き声が坑道に反響する」「出口付近に白い人影が立っている」といった体験談がネット上でも散見され、肝試しに訪れた者が途中で引き返したという話も伝わっている。照明設備がなく、煉瓦造りの坑門が闇の中に浮かび上がる光景は、噂に信憑性を与えるに十分な不気味さを持つとされる。また、このトンネルが通る本坂峠はかつて「姫街道」の難所であり、峠越えに命を落とした旅人も少なくなかったとされることから、「その霊が今もさまよっている」という言い伝えが地元で受け継がれているとも言われている。 旧本坂トンネルは、静岡県浜松市北区と愛知県豊橋市の境に位置し、1915年(大正4年)に開通した全長213メートルの近代土木遺産である。両坑門に煉瓦アーチと帯石装飾を施した意匠は土木学会の選奨土木遺産にも選定されるほど優美なもので、当時の地方土木技術の高さを今に伝えている。本坂峠はかつて東海道の脇街道「姫街道」の難所として知られ、新居関所を避けたい女性旅人や商人が利用した歴史ある経路であった。1978年(昭和53年)に新本坂トンネルが開通して以降は旧道として残されており、現在も通行は可能とされているが、車道幅員が狭く照明もないため、訪れる際には十分な注意が必要である。