
犬鳴山
大阪府泉佐野市大木にある犬鳴山(いぬなきさん)は、和泉山脈の主峰のひとつである。標高692メートル、関西平野と紀伊半島を隔てる山並みの中で、修験道の聖地として古くから知られてきた山岳信仰の中心地である。 犬鳴山の修験道の歴史は、葛城修験と呼ばれる関西西部の山岳修行体系の中で重要な位置を占める。寺伝によれば、斉明天皇7年(661年)、役行者(役小角)が大峰山を開く前に犬鳴山に分け入り、葛城修験道の根本道場として開いたとされる。後世に建立された犬鳴山七宝瀧寺(しっぽうりゅうじ)は、関西の修験道寺院のなかでも歴史の古い寺のひとつとして位置づけられている。 「犬鳴」の地名は、修験者の愛犬の伝承に由来するとされる。役行者の修行中、毒蛇に襲われそうになった主人を救うため、愛犬が吠えて危険を知らせ、自らの命と引き換えに主人を守ったという物語が伝わる。役行者は愛犬の供養塔を建てて弔ったとされ、これが「犬の鳴く山=犬鳴山」の語源として現在も寺伝として伝承されている。 犬鳴山の修行の中核となるのが、犬鳴川とその支流に連なる滝群である。寺伝に基づく数え方で「七宝瀧」と呼ばれ、行者の滝、千手の滝、塔の滝、布引の滝、両界の滝、弁天の滝、布忍の滝など、複数の瀑布が連続する。1,300年余りにわたり、修験者たちはこれらの滝で滝行(たきぎょう)と呼ばれる修行を続けてきた。 滝行は仏教(特に密教)と神道の混合した修行体系で、不動明王の前で経を唱えながら滝の冷水を浴びる精神鍛錬の行である。現代でも七宝瀧寺は一般参拝者向けの「半日修行体験」「一泊修行体験」プログラムを提供しており、修験道の世界を体験できる稀有な場所として知られている。 七宝瀧寺の伽藍は、本堂、行者堂、奥之院、不動明王、護摩堂、宿坊(神武館)など多数の堂宇から構成される。境内全体が修験道の世界観に基づき配置されており、入山者は山中の遊歩道を辿りながら段階的に霊性を高めていく構造になっている。 アクセスは南海本線泉佐野駅または近鉄南海樽井駅からバス、または車で関西国際空港自動車道経由。山中の道路は車での到達が可能だが、駐車場は限られている。修行と参拝、ハイキングが両立できる関西の代表的な修験霊場として、近年は外国人観光客の関心も集めている。

