
精進湖(人面魚の池)
山梨県南都留郡富士河口湖町の精進湖は、富士五湖のなかでも最も小さな湖で、青木ヶ原樹海と富士山の眺望に抱かれた静かな水辺である。一九九〇年代には人の顔のような模様を持つ鯉が話題となり「人面魚ブーム」の震源地として全国に知られた経緯がある。樹海と富士の自然がせり出す湖畔は、観光地でありながら独特の静謐をたたえた土地として、長く人々に語り継がれてきた場所である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夕刻から夜半にかけて湖面を見つめていると、水面の揺らぎが人の表情のように見える瞬間がある、というものである。一眼レフで撮影した写真に見覚えのない人物のような像が写り込んでいた、湖畔で誰もいないはずの方向から低い声のような響きを聞いた、樹海側からの風に重い気配を感じて振り向いた、と語る訪問者がいる。湖面の反射と樹海の音響が、感覚を敏感にさせるためとも考えられる。 地元では、湖を生活と観光の基盤として大切に守る一方、水難で亡くなられた方々への弔いが世代を超えて続けられている。樹海と湖を抱える土地として、怪異の話を消費的に扱うことへの戸惑いがあり、自然と命への敬意ある語り口が共有されている土地である。 湖岸は足場が滑りやすく、夜間の水際歩行は転落や低体温症の危険が高い。樹海側は携帯電波が不安定で道迷いの恐れもある。深夜の単独訪問や肝試し目的の入水・遊泳は厳に避け、訪れる際は日中に正規の遊歩道や展望所から、富士の景観と犠牲者への敬意をもって楽しみたい。
