
親不知・子不知
親不知・子不知は、新潟県糸魚川市の北アルプス末端が日本海に没する一帯で、断崖絶壁が海岸線まで迫る北陸街道最大の難所として古来より名を馳せた地である。親が子を、子が親を顧みる余裕もないほどに波と岩を縫って通り抜けねばならなかったことが地名の由来とされ、波間や岩礁で命を落とした旅人の物語が長く語り継がれてきた。今日は国道とトンネル、北陸自動車道が整備され、当時の旧道は遊歩道として一部歩くことができる土地である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夜の旧道や海岸で波音に耳を澄ますと、遠くから人を呼ぶような低い声がかすかに届く、というものである。岩礁の影に白い人影が一瞬だけ立っていたように見えた、波打ち際から子を呼ぶ女声のような響きを聞いた気がした、旧道の暗がりで誰もいない方向から足音だけが続いていた、と語る訪問者もいる。具体的な犠牲者の話というより、長い年月のあいだに海で命を落とされた多くの旅人への想いが、断崖の景観のなかで物語的に立ち現れているとみるのが妥当である。 地元では、海で亡くなった方々への弔いが世代を超えて続けられており、街道沿いには地蔵や供養塔が静かに置かれている。難所を越えて生きた人々の労苦は誇りとともに語り継がれ、地域の歴史教育にも組み込まれている。 旧道の遊歩道や海岸は落石・高波・滑落の危険が高く、夜間の単独行動は極めて危険である。波打ち際は急に深くなる地形もあり注意が要る。心霊目的の深夜訪問は厳に控え、訪れる際は日中に整備区間を歩き、犠牲者への哀悼を欠かさないこと。



