
白山廃トンネル
新潟県上越市に残る白山廃トンネルは、一九五〇年代に建設され、後年の道路改良によって役目を終えた旧隧道である。掘削から長い年月が経過し、内部の壁面は湿気と苔に覆われ、両坑口は鬱蒼とした樹林に半ば呑まれて昼でも薄暗い。当時の難工事に殉じられた方々や、長い供用期間中に周辺で起きた交通事故の犠牲者を悼む声が、上越の山里には世代を超えて静かに受け継がれてきた土地である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、内部が極端に暗く、進入すると不気味な雰囲気に包まれる、というものである。白いワンピース姿の女性が一瞬だけ坑内に立っているのを同乗者が目撃した、奥のほうから水滴とも足音ともつかない物音が断続的に届いた、車のヘッドライトの光が途中で吸い込まれるように途切れ、計器類のランプが微かに揺らいで見えた、と語る訪問者がいる。 地元では、白い女性の霊が徘徊しているとして近づかないよう言い伝えられてきた。怪異の話そのものよりも、廃道の闇に身を置くこと自体への警戒と、亡くなった方々への哀悼が、語り口の根底に流れている。集落の年配の方々は、夜の山道を語るときに必ず声を落とし、子どもたちには近づかぬよう繰り返し諭してきた。 旧トンネルは老朽化が進み、落盤や落下物、足場崩壊の危険が高い。心霊目的の深夜の立ち入りは厳に控え、近隣住民や管理者の迷惑となる行為は避けたい。歴史を偲ぶ場合は周辺の整備された旧道区間から外観を眺めるにとどめ、犠牲者への敬意を欠かさないこと。

