
大圓寺(行人坂大火供養塔)
東京都目黒区にある大圓寺は寛永年間に創建された天台宗寺院で、目黒の行人坂を上り切った高台に伽藍を構える古刹である。明和九年、いわゆる「行人坂大火」の火元とされ、出火の責を負って関わった僧侶が処刑され、寺は実に七十六年もの長きにわたり再興を許されなかったと伝わる。境内の斜面には犠牲となられた方々を弔うため造立された五百羅漢石像群が静かに並び、東京都の指定文化財として今に伝えられ、八百屋お七の恋人とされる吉三郎の墓も伝承されている。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夕暮れ時に羅漢像の並ぶ斜面に佇むと、無数の視線に取り巻かれているような気配を覚え、足音が背後から付いてくる、というものである。石段を上る際、布擦れの音が続いて聞こえたと語る者、堂内の脇で読経のような低い唱えを耳にしたという者、線香の煙が一筋だけ風に逆らって真っ直ぐ立ち上るのを見た訪問者もいる。 地元では、大火で命を落とされた多くの市井の方々への深い哀悼が、二百年以上を越えて静かに受け継がれてきた。羅漢像はそれぞれが一人の犠牲者の魂を象るとも語られ、参拝者は供養の場として静かに手を合わせ、火災の記憶を後代に伝える語りの場として大切に守られている。 境内は現役の寺院であり、墓所と祈りの場である。観光や心霊目的での無遠慮な振る舞いや撮影は厳に控え、参道では声を低く、ご本尊と羅漢像に黙礼し、火災で亡くなられた方々を悼む心持ちで静かに参拝することを心がけたい。

