
糸数アブチラガマ
沖縄県南城市玉城糸数に位置する糸数アブチラガマは、全長約二百七十メートルに及ぶ天然の自然洞窟である。沖縄戦の際には南風原陸軍病院の分院として用いられ、負傷兵や地域住民、看護に当たった学徒らが避難を余儀なくされ、多くの命が失われたと伝えられている歴史を持つ。現在は平和学習の重要な場として公開され、ガイドの方々の案内のもと当時の状況を後世に伝える役割を担っている。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、深部に進むにつれ息苦しさを覚え、誰もいないはずの暗がりから足音や啜り泣くような声がかすかに響いてくる、というものである。岩肌に手を触れると冷気が腕を伝った、燭の灯がふと揺らぎ消えそうになった、薬品に似た匂いが一瞬漂ってきた、岩の奥から微かな呼吸音のような響きが届いた、と語る見学者がいる。洞窟特有の高湿度と低酸素、反響、地下水の流れる音が感覚を増幅する要因として重なっていると考えられる。 地元では糸数アブチラガマは戦没者への深い祈りの場として大切に守られ、平和学習を通じて若い世代に戦の記憶を継承する役割を果たし続けている。怪異の話も恐怖譚ではなく、戦争の悲惨さと命の尊さを忘れぬための語りとして穏やかに受け継がれている。 洞窟内は足元が滑りやすく落石の危険もあり、立ち入りは正規のガイドツアー以外では認められていない。心霊目的の興味本位の訪問は厳に控え、訪れる際は平和学習として参加し、戦没者と地域の祈りに深い敬意を払う姿勢を保っていただきたい。


