
旧小坪トンネル
神奈川県逗子市の旧小坪トンネルは、鎌倉と逗子を結ぶ古くからの交通路の一部に位置し、周辺には中世以来の刑場跡の伝承が残ると地域に語られてきた素掘りに近い隧道である。海岸段丘を貫く狭く湾曲した構造は、地形と歴史の重なりが独特の閉塞感を生み、夜には通行量も極端に減ることから、地域では昔から怪異の話題に上る場所として静かに語り継がれてきた土地であり、地元の郷土史でも度々取り上げられてきた経緯を持つ。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夜更けに徒歩で抜けようとした際、トンネル中ほどの壁際に白装束のような淡い人影が静かに立っており、視線を向けると瞬時に消えてしまう、というものである。具体的には、後方から自分の足音とずれた歩調の足音が付いてきた、車のヘッドライト越しに一瞬だけ横顔のような輪郭が映った、出口側の暗がりで誰かに袖を軽く引かれた感覚があった、と語る人もいる。 地元では、刑場で命を落とされた人々や、近隣で交通事故に遭われた方々への弔いが、近隣の寺社の供養や地蔵の前の手向けを通じて世代を超えて静かに受け継がれてきた。怪異譚は娯楽として消費されるものではなく、命を落とした人々を忘れまいとする土地の感情の素朴な表れとして穏やかに受け止められている。 旧トンネル付近は道幅が狭く、落石や歩行者と車両の接触事故の危険が高い区間でもある。深夜の心霊目的の立ち入りや路上停車は厳に控え、訪れる場合は日中に外観のみを安全な位置から眺め、土地と眠る人々への敬意を忘れないようにしたい。
