
穴原トンネル
福島県岩瀬郡天栄村、奥羽山脈の縁に近い山間部に穴原トンネルがある。かつて村と隣接地域を結ぶ生活道路の要として開削され、林業や農産物の運搬、冬季の通学路の役割も担い、村人の暮らしを支える重要な隧道であったが、新道整備や周辺集落の人口減少、車両大型化への対応を背景に役割を終え、現在は通行が制限された旧道隧道として山あいの景観のなかに静かに残されている。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、坑口から数歩入った地点で振り返ると、外光の輪郭に人の影が一瞬重なって見える、というものである。湿った壁面に手を触れた瞬間、季節に合わぬ冷気が背筋を伝ったと語る者、奥の闇から低い咳に似た響きが届いたと言う者、入口付近で耳鳴りに似た高音を感じたと述べる者もいる。隧道工事に従事された方々と、旧道を通った人々への、静かな敬意を欠かしてはならない。 地元では、隧道工事で殉職された方々への弔いが、坑口脇の祠や山ノ神の祭事を通じて細やかに続けられてきた。話題は怪異よりも、難工事を支えた人々の労苦と、山と暮らしの距離感を伝える生活史として語り継がれることが多い。 旧トンネルは老朽化により内壁の剥落や落盤、夜間の極端な視界不良といった危険を伴い、単独・夜間の立入は転倒や接触事故の確率を高める。野生動物との遭遇や山中での道迷いの危険も高く、心霊目的の侵入は厳に控え、関心を持つ者は地域の郷土資料館や村史を通じて隧道工事と道路史を学ぶ姿勢を大切にし、殉職者への祈りを忘れないこと。
