
旧三国峠
旧三国峠では、夜間に峠道を歩く人影が目撃されるという噂が登山者や地元住民の間で語られている。その人影はふいに霧の中へ消えると言われ、複数の登山者から「後ろから足音が聞こえたのに振り返ると誰もいなかった」という体験談が報告されているとされる。また、峠付近に点在する供養塔の近くで、夕暮れ時に甲冑姿の武者らしき影が現れるという言い伝えも残っており、戦国期に幾度もこの地を越えた兵たちの残留思念ではないかとも噂されている。冬季の深雪に閉ざされた往来で命を落とした旅人の霊が彷徨っているとも言われ、稜線上では理由のない強い寒気を感じるという声も聞かれる。 旧三国峠は群馬県利根郡みなかみ町と新潟県南魚沼郼湯沢町の境、上越国境の標高1,244メートルの稜線上に位置する。三国とは上野・越後・信濃の旧国名に由来し、奈良時代から東山道のルートとして、中世以降は「三国街道」として機能してきた歴史ある峠である。戦国期には越後の上杉謙信が関東出兵の際に繰り返し越えた経路としても知られ、江戸期には大名行列が往来する主要街道として栄えた。1959年に国道17号の三国トンネルが開通すると旧道は車両交通から外れ、現在は三国山や上越国境稜線縦走の登山道として整備されている。峠頂上の三国権現には当時の旅人の安全を願った神社や供養塔が今も残されており、その静寂が往時の記憶を色濃く漂わせている。