
田代元湯
青森県青森市の南西部、八甲田山中の駒込川渓谷沿いに、田代元湯(たしろもとゆ)と呼ばれる温泉跡がある。八甲田連峰の山深い渓谷の底に位置し、現在は廃湯となっているが、源泉そのものは現在も湧き続けている。 田代元湯の歴史は江戸後期、地元の猟師・太田茂助が偶然湧出を発見したことに始まる、と地域の郷土史に伝わる。発見者の名から「茂助湯」と呼ばれた時期もあり、寛政3年(1791年)の駒込川大洪水で湯小屋が一度破壊された後も、源泉の湧出は続いた。 1902年(明治35年)1月の八甲田山雪中行軍遭難事件の際、第5連隊から離れた将兵2名がこの田代元湯の湯小屋にたどり着き、温泉に浸かり温泉水を飲んで凍死を免れたことが、生存者の証言として記録されている。新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』にもこのエピソードが描かれており、八甲田山の遭難史と田代元湯の関わりは広く知られている。 戦後は近隣の鉱山労働者の湯治場として、また狩猟・登山関係者の山小屋として利用された。1963年(昭和38年)頃まで定期的に利用者があったが、その後の山岳道路網の変化と鉱山閉山により、利用者は次第に減少した。1995年(平成7年)、最後の旅館経営が廃業し、現在は廃湯となっている。 現在の田代元湯跡は、屋根の崩れかけた木造建屋と石組みの湯船、そして渓谷の底に湧き続ける源泉から成る。源泉の温度は40〜50度、単純硫黄泉。建屋と入浴施設は廃墟化が進んでおり、安全のため一般の入浴利用は推奨されていない。 青森県と青森市は廃湯の安全管理について継続的に対応しており、源泉自体の自然湧出は保護対象として扱われている。アクセスは八甲田山中の山道で、車両通行は不可能。徒歩での到達は登山経験者のみに限られ、冬季は積雪のため到達不能。

