
旧御坂峠
山梨県笛吹市の旧御坂峠は、甲府盆地と富士五湖方面を結ぶ古くからの峠道で、御坂山地を越える要衝として長く人と物の往来を担ってきた。峠付近には太宰治が滞在したことで知られる天下茶屋があり、富士山と河口湖を望む眺望地としても親しまれている。一方で急カーブが連続する旧道では過去に多くの交通事故が発生し、命を落とされた方々への弔いの気持ちが、峠の集落と街道の歴史、そして麓の社寺の祈りのなかに今も静かに受け継がれてきた土地である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夜間に旧道を走っていると、カーブの先に立っていたはずの人影が次の瞬間には姿を消している、というものである。バックミラーや後部座席にいつの間にか同乗者と異なる気配を感じた、ガードレール越しの斜面から低い呻きに似た風音が一瞬だけ届いた、エンジン音が途切れた瞬間に独特の冷気が車内を満たした、と語る訪問者がいる。 地元では、旧御坂峠は文学と景勝の地である一方、事故で亡くなられた方々を弔う場として、慰霊の小祠や交通安全の祈りが今も静かに守られている。怪異の語りは見せ物的に消費されるものではなく、急峻な峠道の危険と犠牲者への哀悼を後世に伝える寓話としての側面が強い。 旧道は急カーブと崖際区間が多く、夜間や悪天候時の走行は事故の危険が極めて高い。心霊目的の深夜訪問や肝試し行為は厳に控え、訪れる場合は日中に天下茶屋や展望スポットから富士山と河口湖の景観を楽しみ、犠牲者と地元の方々への敬意を欠かさないこと。
