
上野原市旧甲州街道の旅人霊
1602年に開設された甲州街道は、江戸日本橋から信州下諏訪を結ぶ五街道の一つ。山梨県東部の上野原市には、この街道沿いに上野原宿・鶴川宿・野田尻宿・犬目宿の四つの宿場が置かれた。桂川に沿ったこの地は、大名の参勤交代、商人や行商、御嶽信仰の修験者や富士講の信者など、時代を通じて多くの旅人が行き交う要衝であった。 旧街道筋には、今日も本陣跡や脇本陣跡、一里塚、常夜灯が残存し、道脇には旅路で急病や疲労のために倒れた者を供養する地蔵や馬頭観音が多数祀られている。深夜に旧街道を歩くと、自分の足音に続いて藁草履のような乾いた音が背後に聞こえる、常夜灯の光の中に菅笠と道中合羽の人影が見える、といった現象がしばしば報告されている。本来、これらは宿場を支えた人々と旅の途上で命を失った者への記憶の痕跡であり、街道文化の中で供養と敬意の対象として静かに受け継がれてきた伝承である。
