
南アルプス市旧農業試験場廃墟
南アルプス市は釜無川と御勅使川がもたらす国内最大級の扇状地を擁し、かつては「月夜にも灼ける」と呼ばれた乾燥地帯だった。江戸期の灌漑施設整備を経て、戦後は農業基盤の拡大とともに、養蚕地帯から果樹栽培地帯へ産業転換を遂行した。この転換を技術的に支えたのが、山梨県の各種農業試験施設である。昭和期の県農業試験場は各地に分場や試験圃場を設けて、地域の農業改良と品種研究を担ってきた。しかし1980年代以降、試験機関の統廃合が進み、1984年に農業試験場などの統合、2006年の総合農業技術センターへの改組により、個別の試験施設は次々と役割を終えた。市域内の旧試験場建屋も、改組と合理化の流れのなかで取り壊されずに放置されたものと考えられる。研究棟や温室跡、試験区画のコンクリート施設が残存し、地域農業の発展を支えた技術的基盤が、時間の経過とともに地形に刻まれている。 敷地は多くの場合私有地・公共管理地であり、建屋内部は床の腐朽、薬品残渣、ガラス片など実害の危険が高い。無断侵入や夜間探訪は法的にも安全的にも避けるべきである。