
旧和田峠トンネル
長野県中央部・小県郡長和町に残る旧和田峠トンネルは、中山道屈指の難所だった和田峠を越えるために明治期に開削された石造りのトンネルで、新道の開通で人通りが絶えた現在、苔むした坑口が山肌に静かに口を開けている。江戸期から旅人が雪や寒さに苦しみ、命を落とすこともあった峠の歴史を背景に、夜には「歩く旅人」が語られる心霊スポットとして長く受け継がれてきた場所である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、深夜に坑口の前に立つと、内部の暗がりから笠と杖を背負ったような輪郭の人影が一瞬だけ見える、というものである。坑内の方向から低い詠唱や囁きが断続的に届いた、坑口の前で空気が急に冷たくなった、と語る訪問者がいる。中山道を歩いて越える徒歩旅行者からは、自分の少し前を歩く影が、振り返るとすでに消えているといった書き込みも残されている。 地元では、和田峠で命を落とした旅人たちが、いまも次の宿を目指して歩き続けているという伝承が、世代を超えて穏やかに語り継がれてきた。歴史街道としての中山道への敬意が地域に深く根づいており、現象は単なる怪異ではなく、街道文化の連続として受け取られる傾向が強い。 旧和田峠トンネル周辺は中山道の文化財・自然遺産の保護対象地区にあたり、坑内の構造は崩落の危険を抱える。心霊目的の深夜訪問は事故と遭難のリスクが高く、また地域住民の生活道路への配慮も求められる。訪れる場合は日中に正規の中山道ハイキングコースを利用し、街道の歴史を尊重した形で巡ること。
