
旧天城トンネル
静岡県伊豆市の天城峠を貫いて掘られた旧天城トンネルは、明治38年に完成した石造道路トンネルであり、国の重要文化財に指定されている貴重な近代土木遺産である。川端康成の小説「伊豆の踊子」の舞台としても広く知られ、文学と土木史が静かに交差する場所として大切にされてきた。難工事を担った工夫たちの労苦の上に成り立つトンネルとして、その由来は今も語り継がれている。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、トンネル内を進むと中央付近で急に気温が下がるように感じる、というものである。湿った石壁の方向から低い話し声のような響きを聞いた気がした、出口手前で着物の裾が翻るような白い影が一瞬よぎったように見えた、と語る訪問者がいる。具体的な事件と直結する伝承ではなく、近代の旅路と工事の記憶が物語的に立ち現れている。 地元では、難工事のなかで命を落とされた工夫の方々への弔いと、峠を越えて旅した人々の物語が、文学の舞台としての誇りとともに世代を超えて受け継がれてきた。現象の話は怪異というより、土木遺産と文学を語る豊かな語り口の一部として穏やかに受け止められている。 旧天城トンネルは文化財であり、内部の落書きや器物損壊は法令違反となる行為である。夜間は照明がなく路面の段差や落下物、落石の危険も伴う山中の旧道である。心霊目的の深夜訪問は控え、日中に文化財として静かに通り抜け、難工事で命を落とされた工事殉職者と文学の舞台への深い敬意を保つこと。



