
旧幸福の黄色いハンカチ病院
高知県室戸市にある旧老人病院は、一九六〇年代に建てられたとされる地域医療を担ってきた施設で、室戸の海沿いに暮らす高齢者の療養を長く支えてきた建物である。設備の老朽化により一九九〇年代に閉鎖されて以降は静かに廃墟化が進み、病室や処置室の名残が残された薄暗い空間が、海風と潮の匂いに包まれながら時間の経過を静かに記録し続けている場所である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夕暮れに外から建物を見上げると、誰もいないはずの病棟の窓ぎわに、白い寝衣の人影がゆっくりと佇んでいるのを見た、というものである。廊下の方角から車椅子の軋むような微かな金属音が聞こえた、室内の壁面に取り残された黄色い布切れが風もないのに揺れていた、と語る訪問者もいる。いずれも具体的な患者に結び付く話ではなく、療養の記憶が物語として語り直されている性格の現象である。 地元では、この施設で晩年を過ごした入院者の方々と看護に尽くした職員への思いやりが静かに保たれている。怪異の語りも、地域医療の厚みと高齢者を支えた営みを忘れぬための寓話として穏やかに受け止められている。 建物は立ち入り禁止であり、床抜けや天井崩落、海風による外壁剥落や鋭利な金属片による負傷の危険が非常に高い。心霊目的の侵入は不法侵入にあたり、ここで晩年を過ごされた入院者の方々と看護に尽くした職員の尊厳を傷つける行為であるため厳に慎むこと。室戸の海岸沿いを訪れる際は、地域医療を支えた人々の歴史に敬意を払う姿勢で、外から静かに通り過ぎてほしい。