
乙女の祈り(松島・西ノ浜)
宮城県宮城郡松島町、日本三景・松島の景勝地に連なる磯崎西ノ浜の海岸沿いに、「乙女の祈り」と呼ばれる一角がある。かつてこの場所に立っていた一本の松の木の幹には、鋭利な刃物で刻まれたとみられる文字列が残されていた。「コノ時ヲモッテ乙ノ限界ヲ知ッタ 大自然ニ生キルイギヲ失ウ 乙ハ死ヲモッテ コレヲ征服セネバナラナイ」という一文で、遺書めいた響きから、失恋に苦しんだ女子高生が崖から身を投げた際に書き残したものとする説が広まった。ただし当該の崖はさほど高くなく、自殺を成立させるには不十分だとする指摘もあり、真偽は定まっていない。 この刻字は当初「乙女心」と呼ばれていたが、同名の歌謡曲になぞらえて次第に「乙女の祈り」という呼び名に変化したとされる。文字の意味を解読すると災いが及ぶという噂が広がり、供養のためにタバコを供えなければ祟られるという言い伝えも生まれた。1990年代には、この場所を心霊企画として取材した地元テレビ局の担当アナウンサーが、放送後にトラック事故に遭って亡くなったという出来事が伝えられ、呪いの噂に拍車をかける逸話として語られている。 現在、刻字のあった松の木自体は伐採されており、切り株の一部が残るのみとされる。景勝地としての静かな海岸線と、かつて刻まれた一文が呼び起こす死の記憶が重なり、日中の観光地としての賑わいとは対照的な、もう一つの顔として今も語られている場所である。