
白馬館
富山県富山市の北アルプスを背景とした山麓に建つ白馬館は、昭和高度経済成長期の団体観光需要を見込んで建設された山岳温泉施設である。豊富な湯量と立地の優位性から、長年にわたり企業の研修施設や家族連れの湯治客を受け入れ、地域の観光産業を担う施設として機能していた。 しかし平成以降、観光スタイルの多様化と少人数グループ化に伴い、従来の団体利用を前提とした大型施設は経営が困難になっていった。白馬館も同様の構造的課題に直面し、結果として営業を終了。木造と鉄筋コンクリートを組み合わせた重厚な建築体は、現在、苔が生す開口部と曇った窓ガラス、傾いた看板とともに、昭和の余暇文化と地域観光の盛衰を物理的に示す痕跡として残存している。 廃墟化後、建物内外の音響環境(木造部分の軋み、風による音)や圧縮空気や温度差による物理現象が、既知の施設歴と相まって、来訪者の知覚に心象的な膜を被せる。怪異譚は、廃れた施設への心理的接近の際に、環境的な刺激を人間関係や人格的存在として解釈する自然な過程とも言える。