
その他·広島県 広島市
幽霊の棲む江波邸
江波は広島市中区の海辺の集落で、江戸期は瀬戸内海の島だった。明治初期の埋立により陸続きとなり、外港として機能した。戦前は船大工や漁業者の家々が立ち並び、古い木造建築が密集していた。1945年8月6日の原爆投下時、背後の山に隠れた地形が災いして火災から守られ、周辺が焦土と化する中で江波は焼け残った。戦後、区画整理や埋立が進み、町並みは大きく変貌した。旧家を含む戦前の建物の多くが解体・転売され、かつての集落の痕跡は地図からも消えつつある。
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瀬戸内の要衝・広島県は、近代日本の戦争の傷跡を最も深く刻む地である。1945年8月6日、十数万の命を奪った原爆の記憶、軍需を支えた巨大な旧陸軍被服支廠の赤煉瓦、毒ガス製造の島・大久野島の廃墟群——平和記念公園の静寂の地下には、被服廠の壁が今も焼夷の熱を抱え、瀬戸内の青い海は二十世紀の重い歴史を映し続けている。
既存の地形や用途では括れぬ場にも、土地固有の因縁は宿る。交通の要衝、軍事施設跡、産業遺構、来歴の途絶えた建造物など、分類を拒む空間ほど語りの空白を抱え込む。沈黙の中に堆積する名もなき記憶こそ、新たな怪談を生み出す苗床となる。