
幽霊の棲む江波邸
広島県広島市の江波地区にあるとされる旧邸宅「江波邸」は、かつての主人が行方不明のまま失踪し、遺族が館を手放したという言い伝えを抱える古い屋敷である。広島市は被爆と復興の歴史を重ねてきた土地であり、江波の海辺の集落も戦前から続く暮らしの記憶を多く抱える地域として知られ、邸宅は街の近代史を物語る建物の一つとして地元では静かに認識され、瀬戸内の海風と街の歩みを背景に語られてきた場所である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夜間に邸宅の外から眺めると、閉め切られているはずの一室の窓に人影が映る、というものである。影は窓際を行き来したのち部屋の奥へ消えていった、車で通過した同乗者だけが白いワンピースの女性を見たと話していた、邸内の照明が点滅したように感じられた、潮の匂いに混じって甘い香の気配が漂ったような気がした、塀の内側から微かな衣擦れの音が届いたように感じられた、と語る訪問者がいる。 地元では、家を残したまま離れざるを得なかった人々への思いや、戦中戦後の混乱で消息を絶たれた方々への弔いが、地域の語りのなかで穏やかに受け継がれてきた。怪異の話は、家と人の縁の儚さと、街が歩んできた近現代史への思いを伝える寓話的な側面を強く持っている。 邸宅は私有地であり、敷地内への侵入や塀越しの撮影は住民の生活を脅かす行為となる。心霊目的の深夜訪問は厳に控え、訪れる場合は公道から静かに眺めるに留め、住民の暮らしと故人への敬意を欠かさないこと。