
東京都八王子市『むかし道』
東京都八王子市の郊外、丘陵地のへりに残る通称「むかし道」は、江戸期に整備された甲州街道や、生糸を横浜港まで運んだ絹の道など、八王子を結節点とした旧街道網の一部とされる古道の総称である。明治以降の鉄道網と国道整備により本街道としての役割を失った後は、並行する近代道路の脇で、石仏や道標、古い石灯籠を残しながら静かに眠ってきた。昼でも木立に覆われ薄暗く、独特の旅情と寂寥が漂う道筋として、地域の郷土史家や民俗研究者からも長く注目されている古い道である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、宵闇の旧道を歩く者が、前方を歩いていたはずの旅装の人影が角を曲がった瞬間にふいに姿を消すのを目撃する、というものである。背後から下駄の足音が次第に近づいてきたが振り向くと誰もいなかった、灯のないはずの古い石灯籠が一瞬だけ淡く光って見えた、木立の奥から馬の鈴に似た音色がよぎった、と語る人がいる。 地元では、街道で行き倒れたり追剥に遭われたりした名もない旅人への弔いが、道沿いの地蔵や庚申塔、辻の祠を通じて穏やかに受け継がれてきた。怪異の話は揶揄ではなく、絹の道と甲州街道に生きた人々の往来と苦難の記憶を、物語の形で伝える側面を強く持っている。 旧道は街灯がなく、路面の凹凸も大きいため、夜間の単独歩行は転倒事故の危険が高い。私有地に接続する区間もあり、無断立入は厳に控え、訪れる際は日中に郷土資料館の地図や案内を踏まえつつ、街道の文化財と地域の歩みへの敬意を保ってほしい。




