
今治市廃造船所跡
愛媛県今治市は瀬戸内の海運と造船を長く支えてきた「造船の街」として知られ、市内各地にドックや関連工場の跡、社宅街の名残、来島海峡の航路文化が点在している土地である。海岸線沿いに残る旧造船所跡もそのひとつで、戦後の高度成長と海運の歴史、そして現場で重量物と火花、酷暑のなかで艦船を組み上げ続けた工員たちの労苦、家族の暮らしと造船城下町の記憶を併せ持つ場所として、地元では静かに語り継がれてきた産業遺産である。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夕暮れに敷地の外周を歩いていると、内側の方角から金属を叩く音や溶接めいた断続音が遠く聞こえたような気がする、というものである。錆びた構造物の影に作業服姿の輪郭が一瞬立っていたように見えた、潮風に紛れて低い掛け声めいた響きが届いた、と語る近隣住民もいる。職務に殉じた方々への敬意とともに静かに語られている素朴な噂であり、現場の労苦の重みを伝える話でもある。 地元では、造船業を支え事故などで命を落とされた工員への弔いが世代を超えて受け継がれており、現象の話は怪異というより、産業史と人々の労苦への敬意を促す寓話として穏やかに受け止められている。 敷地は私有・管理区域で立入は禁じられ、足場崩落・残置物・有害物質などの危険があり、無断侵入は重大事故と法的責任を招く。心霊目的の訪問は厳に控え、造船の歴史については資料館や公開施設を通じて学び、亡くなられた工員への哀悼を欠かさないこと。
