
キャッチボールする霊
愛媛県今治市の市街地に位置する小学校のグラウンドは、瀬戸内の温暖な気候のもと地域の子どもたちの学び舎として長く親しまれてきた場所である。今治は造船と海運の町として近代以降に大きく発展し、学校は戦後の地域復興の中で子どもたちの居場所と学びを守る役割を担い続けてきた歴史を持つ。そうした地域の歩みを背景に、夜間のグラウンドで語られる不思議な目撃譚が世代を越えて受け継がれている。 寄せられる体験談で繰り返し語られるのは、夜更けに人気のないグラウンドへ視線を向けると、子どもの輪郭をした影が一人でキャッチボールをしているように見える、というものである。革のグラブにボールが収まる乾いた音が校舎の方から聞こえてきた、街灯の届かぬ外野付近に小さな影がぽつんと立っていた、足音が砂を踏んで往復するように響いてきた、と語る通行人がいる。具体的な人物と直結する伝承ではなく、子どもへの哀惜の情が物語の形を取って語られているとみられる。 地元ではこの話は脅かしの怪談ではなく、子どもの命の尊さを忘れぬための寓話として穏やかに受け止められている。学校関係者や地域住民は夜間の校地への立ち入りを慎み、静かに見守る姿勢を保ち続けてきた。 学校敷地は教育の場であり、夜間の無断侵入は法的にも倫理的にも認められない。心霊目的の訪問は厳に控え、地域の子どもたちと教職員の生活を乱さぬよう配慮し、長く語り継がれてきた哀悼の心を尊重していただきたい。